政治リーダーとしての経験不足が指摘される野田総理大臣、とくに外交については全く経験がないといってよく、このむつかしい時代にいかにして日本の国益を守っていけるか、不安視する向きもある。
外交上特に重要な近隣諸国との関係では、A級戦犯をめぐる一連の発言で、中国や韓国の反発を呼んだ。いらぬ誤解を煽り立てて、国際関係に感情的な要素を敢えて持ち込むことは愚策というに近い。ここは外交の原点に返って、良好な国際関係の構築に向けて冷静な対応を求めたい。
日本外交の基軸ともいえる日米関係については、鳩山、菅と二代続けてチグハグな対応振りが目立ち、一時はアメリカ側から深刻な不信感を突きつけられるような事態にも陥った。幸い、東日本大震災に対するアメリカ側のトモダチ作戦など、両国の友好関係を強化させるような動きもあったが、日本側は情けない権力争いのために、日米首脳会談の日程も設定できない体たらくぶりだった。野田さんには、揺るぎかけた日米の信頼関係を再構築し、日本の安全保障を確固たるものにしてもらいたい。
そんな野田さんを待っている当面の外交日程としては、9月の国連総会、11月にハワイでの開催が予定されているAPECがあげられる。このうちAPECは、野田さんにとって思いがけない外交上の罠になる可能性がある、そんなことを冷泉彰彦氏が指摘している。(野田新首相を待ち受けるハワイAPECの罠とは?日本語版NEWSWEEK)
今年(2011年)はたまたま日米開戦から70周年にあたる。米側はハワイでのAPECの場で、真珠湾攻撃で死んだ米兵たちのために、戦艦アリゾナからの首脳献花を予定しているという。そうなれば、野田さんは胡錦濤やメドヴェージェフと並んで献花する羽目に陥る。これは日本にとって外交上の重大な失点につながる、と冷泉氏はいう。
というのも、毎年行われているこの献花の儀式に日本の歴代総理大臣は一人として参加したことがない。もし野田さんが今年の首脳献花に参加するとなれば、それは日本の総理大臣としては初めてのことになる。その始めての献花を、第二次世界大戦の敗戦国である日本の首相が、アメリカ、ロシア、中国といった戦勝国の代表と並んで行うということは、日本にとって屈辱的な事態につながる恐れがある。
日本は第二次大戦の敗戦国として、並びいる戦勝国の代表と共に日本による攻撃の犠牲者たちに献花するのだから、この行動が、日本による攻撃の不当性を戦勝国の前で改めて確認するものだと受け取られることにつながるのも避けられない。そうなると「正当な戦利品として北方諸島を奪った」というロシアの論理に反駁することができなくなる恐れがあるし、中国も尖閣問題などで一層高飛車な姿勢を示すようになるかもしれない。
だから野田さんは、重々準備してこのAPECに望まなければならない。そう冷泉氏は警告するのだ。
準備の仕方にはいろいろあるが、もっとも有効なのは、この集団献花の前に、日米間で一定のけじめをつけておくことだ、そう冷泉氏はいう。つまり首脳献花に先立って、野田さんがオバマ大統領と一緒にアリゾナからの献花を行うなどのパフォーマンスを行う、そうすることでAPECでの首脳献花に日本にとって受け入れがたい特殊な色合いを付与できなくする、それが肝心だという。というのも国家間の関係というのは、儀式的な要素が多いからなのだと。
こうしたパフォーマンスに、たとえばオバマ氏の広島・長崎訪問を繰り込めば、日米にとってお互い様という色彩が一層強くなる。
外交というものには、したたかな計算が必要だ。一国の指導者が不用意に個人的な見解などを吐露して、隣人の誤解を煽り立てるのは、外交としては下の下だといわねばならない。
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