フランク・ランジェラ、リタ・ヘイワースを語る

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アメリカの映画俳優フランク・ランジェラ(Frank Langella)が最近出版した回想録の中で、晩年のリタ・ヘイワース(Rita Hayworth)と共演した思い出を書いている部分を、Newsweek の最新号が掲載している。Don't stare at me, Baby. You can see me in the Movies. Rita Hayworth could not remember his name, but Frank Langella has never forgotten her.

リタ・ヘイワースは1940年代のハリウッドのセックス・ゴッデスと呼ばれた女優だ。アメリカはもとより世界中の映画ファンから愛された。代表作は1946年に公開された「ギルダ」や44年の「カバー・ガール」などで、強烈なセックス・アピールが売り物だった。

しかし1960年頃以降はスクリーンから姿を消した。40歳という若さでアルツハイマー病にかかってしまい、演技ができなくなったためだ。そんな彼女とランジェラが共演したのは、1972年の映画「神の怒り(The Wrath of God)」の中でだった。この映画に出演したロバート・ミッチャムが、当時引退していたリタを引っ張り出したのだった。その映画の中で、ミッチャムは神父、ランジェラは神父を憎む独裁者、リタは独裁者の母親といった役回りだった。

ランジェラは、撮影地だったメキシコの小さな町のホテルで、初めてリタと会った。そしてリタと会った瞬間から、ランジェラはリタが好きになってしまった。その理由を、ランジェラは言っていないが、リタの中には不思議な魅力があったのだろう。

このとき既に、リタの病状はかなり進んでいた。俳優として困るのは、科白を覚えていられないことだった。二人の最初のシーンで、教会の中にいるリタのもとにランジェラが近づいて、Why are you here? と呼びかけ、それに対してリタが "Because God is here." と答える場面があるが、リタにはこの四文字が言えなかった。それで監督はスタントマンをリタの足元に寝そべらせ、リタに向かって小さな声で "Because God is here." と云わせた。こうすることでリタはやっと科白をいうことができた。

ランジェラとリタは同じホテルに部屋をとって、親密な交際をした。リタはランジェラに向かって、"Do me a favor, Baby, don't ever call me mother. と云った。女として扱って欲しかったのだ。

リタにはオースン・ウェルズをはじめ5人の夫と、数知らぬボーイ・フレンドがいた。ランジェロと出会った時のリタは54歳になっていたが、まだ美しさの片鱗は残っていたに違いない。

しかし科白を覚えられないということは、俳優にとっては致命的なことだ。監督は当然イライラしたが、主演のミッチャムはおおらかな気持ちでリタのぺースに付き合ってやった。でも周りの連中はリタのことを散々に罵った。彼女が科白を覚えられないのはいつも酔っぱらっているからだとか、やる気がないからだとか、そんなせいにされた。当時はアルツハイマー病に関する理解など、世間には全くなかったのだ。

結局セットの中ではいつも大きなプラカードを用意して、それにリタの科白を大文字で書き、それを読むことで役者としての務めを果たした。それはリタの自尊心をいたく傷つけることだったが、ほかに方法はなかった。

撮影の期間中、リタと一緒に過ごした日々は素敵だったとランジェラは書いている。しかし撮影が終わると、ランジェラはリタを一人で残して去っていった。"Stay with me tonight." との、リタの最後の夜の望みにはとりあえず応えてやったが、日が昇る前にリタの部屋から出て行ったのだった。(写真は Newsweek から)





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このページは、が2012年3月20日 20:20に書いたブログ記事です。

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