AIJ年金消失問題:何故どこへ消えたか

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AIJ投資顧問が厚生年金基金から運用を委託されていた資金約2000億円を焼失させていた問題が、国民の大きな関心を引いた。この投資顧問は、高い運用利回りを約束して資金を集めながら、実際にはその資金を運用せずにリターン資金にあてるなど自転車操業を続けたあげく、ついには破たんしてしまったというよくある話だったが、ことはサラリーマンの老後を支える貴重な金が、まんまと騙し取られたとあって、当のAIJ顧問がけしからぬのはともかく、騙された形の厚生年金基金もいったい何をやっていたのか、とマスコミの追及の格好の的とはなった次第だった。

厚生年金基金とは、厚生年金の運用を任せられている団体で、主な仕事は二つある。ひとつは、厚生年金のうちの純粋な企業年金部分、いわゆる三階部分の運用、ふたつめは本来の厚生年金、いわゆる二階部分について、国から運用を任せられた部分からなっている。

社会性の高い金だから、もともとはその運用に厳しい枠がはめられていた。たとえば「五・三・三・二規制」というものだ。5割以上は元本の安全な国債などにあてねばならない、株式や外債など時価の変動する者は3割以下に、不動産投資は2割以下にしなければならない、そしてヘッジファンドなどによるオルタナティブ投資は認めないといった具合だ。しかも、その運用は、信託銀行とか生命保険会社など、お堅いところに全額ゆだねるというのが基本だった。

ところが1987年に、金融緩和の一環として制定された投資顧問業法のなかで、投資一任契約なるものが合法化されると、これに運用をまかせる厚生年金基金が増加した。ただでさえ苦しい年金資金の運用に対して、信託銀行などより高い運用利回りを約束する投資顧問業者が、魅力的に映ったためだ。

いっぽう、投資顧問会社に運用をまかせた厚生年金基金側にはどんな問題があったのか。彼らはいってみれば騙されたわけだから、自分たちがなぜ騙されたのか、基金の会員企業に説明しなければならぬ立場にある。

ところがこれが、あきれてしまうのだ。厚生年金基金には常務理事、事務長、学識経験幹事と云う肩書の人々がいて、彼らが資金の運用に責任をもっている。この制度は厚生省が設置を求めているものだが、現実としてはほとんどの基金において、厚生省出身者が、常務理事と、事務長に天下っている。何のことはない、厚生省の役人どもが自分たちの老後のために、こっそりと作った役職というわけだ。始末が悪いことに、これらの天下りどもは、厚生年金の制度についてはプロかも知れないが、金融の事に関してはまったくのド素人だ。

そんなド素人だから、AIJのような悪意ある投資顧問会社にとっては格好の餌食になったわけだろう。だいたい今のようなせちがらい時代に、そんなにうまい話がころがっているわけがない。そんなうまい話があるのなら自分でこっそりとやればいいのだ。常識をちょっと働かせれば誰にもすぐわかることが、なぜ騙された厚生年金基金の常務理事や事務長たちにはわからなかったか。

それは彼らが雇われ常務理事、雇われ事務長であり、所詮は天下りのやっつけ仕事、厚生年金基金の利害を自分の利害として考える姿勢に欠けていたからに他ならない、そういわれても仕方がないところだろう。

ところで、国会に呼ばれたAIJ投資顧問の会長は、自分のやったことがちょっとまずかったかもしれないとは言い訳したが、何故そんな巨額の資金が消えてしまったかについては、詳細を明かすことをしなかった。やはり、裁判にかけて、責任を取らせるほかはないだろう。(この会長は自分自身に対して7千万円の年俸を支払っていたというから、あきれてしまうよ)





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このページは、が2012年4月 9日 19:07に書いたブログ記事です。

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