人間と動物の視野

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あの人は視野が狭いとか、逆に視野が広くて周りがよく見えてるとか、そんな言い方がよくされる。視野が狭いというのは、どちらかというと否定的な感じで、人間としての幅の狭さや思慮の浅さに通じるイメージを伴っている。だがよくよく考えてみると、視野が狭いことは、悪いことだらけでもなさそうだ。

形態学的に見ると、人間より視野の広い動物はいくらでもいる。たとえば牛や馬などの草食動物、あるいは魚類の大部分は、360度の角度でものが見える。これは両目が顔の横のほうについており、視野の重なりが少ないことの結果だ。

だから人間や肉食獣が、馬の背後から襲いかかろうとしても、馬のほうではすぐにわかってしまう。競馬馬があんな団子状になりながら、お互いにぶつかり合わずに走ることができるのは、それぞれの馬が、自分の周囲を満遍なく見ているからでもある。

これに対して人間は、両目が顔の前のほうに二つ並んでついている。そのため視野の重なりが大きい。片目だけで160度の視野があるが、両目をあわせた視野は200度くらいにすぎない。虎やライオンなどの肉食動物も、ほぼ人間と同じ目の構造をしている。

両目の視野の重なりが少ないと、見える範囲が広がる一方、立体感には乏しくなる。逆に視野の重なりが大きいことは、見える範囲が狭くなる反面、対象を立体的に捉えられる利点につながる。

肉食動物は、すばしこい獲物を迅速に捕獲するために、相手の動きを立体的にかつ深く見ることが求められる。このような動物にとっては、視野が狭くなることの代償に、獲物の動きを詳細に見られることの利点は大きい。

一方捕食の危険に常にさらされている魚や草食動物は、四方八方に目配りをしていなければならない。このような動物にとっては、多少映像がぼやける代償をはらっても、周囲の様子を満遍なく見られることの意義は大きい。

人間は猿の仲間、つまり雑食性の動物であって、肉食動物ではないが、目の形の特徴は、イヌ科やネコ科など肉食動物と共有している。その結果背後のことはまったく見えず、側面もぼんやりとしか見えないが、前方に見えるものについては、立体的にかつ微細に見ることができる。

このことが、人間の人間たる所以ともいえる知性の発達に決定的な役割を果たしたのではないか。

感覚の中でも視覚は格別に重要なものだ。脳がもともと視覚器官の延長として始まったことが、それをよく物語っている。中には地中動物や深海動物のような例外もあるが、ほとんどの動物は視覚を通じて、まわりの世界と関わりあっている。したがって視覚がどのように機能しているかは、その動物にとっては、世界認識のあり方を制約する条件にもなる。

人間は立体的でシャープな映像を視覚として持ったことで、対象世界を単なる光景として眺めわたすだけでなく、それを視覚による分析の対象として位置づけるにいたった。そのことが人間に特有な科学的な態度を育んできた。そうもいえるのではないか。





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