NHK恒例の元旦の能番組が、今年は観世流の「八島」を放送した。シテは梅若玄祥が演じていた。テクストについては別稿で紹介したのでここでは詳しく触れないが、正月を飾るに相応しい、なかなか見ごたえのある舞台だった。とくに最後に近いところでのカケリがよかった。
八島は田村、箙とともに三大勝修羅といわれ、能の中でもめでたい部類のものに入る。普通修羅物というのは、その名から推し量られるとおり、修羅道に落ちた武将の煩悩を描くものだが、勝修羅というのは、武将生前の勇ましい戦いぶりを回想するという趣のものだ。
世阿弥は、平家物語を題材にとって、修羅物を多く書いた。祝言の能を脇へ置けば、鬘物と並んで、彼が最も勢力を割いたジャンルだ。清経や敦盛をはじめ大体は死んだものの煩悩を描いているが、この八島は義経生前の勇姿を描き、煩悩とはほどとおい世界を展開させている。
徳川時代になると、能は武士の式楽となったため、大いに栄えた。なかでも武将の姿を描いた修羅物が最も人気のある番組になった。その修羅物のなかでも勝修羅は、勇壮な戦いをテーマにしていることから、とりわけ武士たちに好まれた。八島はその代表と言うべき曲なのである。
最近は、能といえば四番目、五番目がもてはやされ、修羅物を含めた二番目物は上演される機会が減ってきているようだ。だが清経が世阿弥の最高傑作といって差し支えないように、修羅物には見るべきものが多い。上演の機会が増えることを期待したい。
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