「うつ」と向き合う男たち

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「うつ」は長い間女性に特有の精神症状であると考えられてきた。それは子宮を持つ者の宿命であり、思春期、出産、閉経と、節目ごとに変動するホルモンのバランスが失調に陥ったとき、女性を苦しめるのだと考えられた。

だが今や、男も「うつ」になる。「うつ」に「なる」というより、男も「うつ」であることを隠さず、「うつ」と向き合うようになってきたということだろう。そんな男たちの「うつ」の現状と治療法について、最近のニューズウィーク誌が伝えている。Men and Depression: New Treatments ; By Julie Scelfo

色々な意味で、アメリカは男らしさが尊重される社会である。映画「真昼の決闘」の主人公ゲーリー・クーパーのように、確固たる自己を持ち、無駄口をたたかない寡黙な男が、もっともアメリカ人らしい男のモデルである。

そんな社会では、自分で自分をコントロールできない男は、だめな人間との烙印を押されかねない。だから、男たちは「うつ」の症状が現れても、それを受け入れることができず、アルコールや薬物、ギャンブルや暴力、時にはワーカホリックになることで回避しようとしてきた。

こんなアメリカ社会においても、年間に600万人もの男たちが「うつ」の診断を受けるまでに至った。治療を受けることなく、一人で悩んでいるものも多いことだろう。ストレス社会アメリカの一つの側面を物語っているともいえるが、これまでとは違って、「うつ」と診断されても、それを恥ずかしいと思う風潮は薄れつつあるという。

マサチューセッツ選出の上院議員が、自分が「うつ」であることを告白したことがあった。彼は嘲笑を浴びるのではないかと心配していたのだが、かえって時代のヒーローとして迎えられた。彼の「うつ」と向き合う姿勢が、人々の共感を呼んだのだ。

アメリカの例に限らず、「うつ」は今や、先進国に共通の文明病のようなものになっている。日本での統計は明らかではないが、やはり同じような傾向にあるのだろう。

「うつ」のもたらす影響は、患者個人にとっても社会全体にとっても、大きな損失につながる。アルコール依存や心疾患での死亡は、「うつ」の患者において、有為的に多いという統計がある。また、自殺の殆どは、「うつ」を適切に対処できなかったことが原因だろうと考えられている。

人々が「うつ」と正面から向き合うようになった結果、その発症のメカニズムが段々明らかになってきた。一時期は、セロトニンのような神経伝達物質の減少が「うつ」を引き起こすと考えられていたが、最近では、脳の神経細胞の損傷が「うつ」を引き起こすのではないかと考えられている。

強いストレスの持続や、悪夢のように過酷な体験は、脳に過剰な反応を強いることがわかっているが、そのときに生じる神経細胞の損傷が「うつ」を引き起こすのではないか。脳内にあるArea25という領域は、情動と深い関係があるが、この部分の損傷は、とりわけ「うつ」を引き起こすらしい。

最近の「うつ」の治療法の主流は、ケタミンのようなトランキライザーによる薬餌療法とカウンセリングを組み合わせたものだ。このほか、場合によっては、ホルモン投与も用いられる。男性の場合、男性ホルモン「テストステロン」の減少が「うつ」を引き起こすことがわかってきたからだ。

だが、どんな患者に、どんな療法、どんな薬が有効かは、いまだ十分に解明されているとはいえない。試行錯誤と、医師の感に左右されているというのが現状だそうだ。

いづれにせよ、「うつ」はかつてのように恥ずべき事態ではない。誰でもなりうる精神の失調なのである。恥ずべきなのは、「うつ」と向き合わず、「うつ」によって自分を支配されてしまうことである。

「うつ」は重症になると、人を自殺に駆り立てることもある。


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