ウィリアム・ブレイクの詩集「経験の歌」 Songs of Experience から「ロンドン」 London (壺齋散人訳)
ロンドン
わたしはロンドンの巷を歩く
傍らにはテムズが流れる
そして出会う人の顔ごとに
弱々しさと苦悩を読み取る
あらゆる人のあらゆる叫びに
あらゆる子どもの泣き声に
あらゆる声に あらゆる呪詛に
私は宿業にさいなまれた声を聞く
煙突掃除の子どもたちが泣いても
どんな教会も助けてはくれない
不幸な兵士たちのため息は
宮殿の壁を血に染めてうつろう
真夜中の巷でわたしが聞くのは
若い身空で売奴となった女の呪い
呪いは幼子の涙を吹き飛ばし
新婚の団欒も疫病で滅ぼす
18世紀末のロンドンの町と、そこに暮らす人々を歌ったこの詩は、余りにも陰惨なイメージに満ちている。ほぼ同時代人だったワーズワースが、静かで美しいロンドンの街を歌ったのとは対照的だ。
実際当時のロンドンは、テムズ川も街路も薄汚れていた。ワーズワースはそれをネグって街の美しさだけを歌ったのだが、ブレイクは率直に現実を描く。薄汚れた街で、最も悲惨な目にあっているのは弱者たちだ。その弱者の呪いは、不幸な兵士のためいきとなったり、売春婦の呪いとなってロンドンの街を覆う。
先に「煙突掃除の男の子」のなかで、現世の悲惨さを抉り出したブレイクは、この詩の中では、その悲惨さをパノラマ的に拡大して見せたといえる。
London William Blake
I wander thro' each charter'd street.
Near where the charter'd Thames does flow
And mark in every face I meet
Marks of weakness, marks of woe.
In every cry of every Man,
In every Infants cry of fear,
In every voice: in every ban,
The mind-forg'd manacles I hear
How the Chimney-sweepers cry
Every blackning Church appalls,
And the hapless Soldiers sigh
Runs in blood down Palace walls
But most thro' midnight streets I hear
How the youthful Harlots curse
Blasts the new-born Infants tear
And blights with plagues the Marriage hearse
関連リンク: 英詩のリズム>ブレイク詩集「経験の歌」
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