FRB米連邦準備制度がAIGアメリカン・インターナショナル・グループに対して850億ドルにのぼる公的資金を投入する決定をした。AIGの株式79.9パーセントを買い上げる方式をとり、2年後には全額を償還する計画で、変則的な貸付方式といえる。AIGはこの資金で当面の危機を乗り切り、その間に所有財産を売却することで返済資金を捻出する計画だ。
米政府当局は、先週末のリーマン・ブラザースの破綻劇に関しては、一貫して非介入の姿勢をとっていたのに、一変してこの救済に転じたわけだが、その背景には、金融市場の混乱が予想以上に深刻だったことへの危機感がある。
米金融市場の先行きについては、筆者も先稿ではやや楽観的な憶測をしたが、米政府当局もそんなに深刻視していなかったフシがある。ところが週があけて、各国の証券市場が大下落を記録した事態に直面し、放置してはおけないと判断したのだろう。
AIGといえば世界最大の保険会社で、アメリカ資本主義を代表する企業のひとつだ。世界130カ国に事業を展開し、従業員数は20万人を超える。日本でもアリコ・ジャパンなどの保険会社を運営している。
そのAIGがなぜ経営危機に陥ったのか。原因はサブプライム・ローン問題だ。
サブプライム・ローンとは、低所得者向けの住宅ローンだ。アメリカでは、これにかかる債権をほかの金融商品と同様に、証券化して市場で流通させてきた。ローン会社は証券化した債権を売ることによって資金調達を円滑化し、投資家はこの証券を購入することによって、利益を得るというからくりだ。
だ近年になって、サブプライム・ローンの実体をなす担保価値が下落する事態が起きた。日本のかつてのバブル崩壊と似た現象が起きたのだろう。それにともなって証券の価値も急激に低落した。これが今日アメリカの陥っている金融危機につながったのである。
金融危機の影響はまずベアー・スターンズのような投資銀行や住宅ローン会社で現れた。ついでリーマン・ブラザースやメリルリンチのような証券会社が破綻した。証券会社は債権の証券化を手がけた張本人だから当然の事態といえる。そして今回はAIGである。
AIGは保険会社だが、膨大な資金の運用先として、サブプライム・ローン証券を選んできた経緯があるらしい。だからこの問題が深刻度を深めるにしたがって、泥沼に陥ったのだと思われる。
アメリカの証券市場には世界中の金が集まってくる。その中でアラブのオイルマネーのような外国籍の金は、投資の条件が少しでも危うくなると、瞬く間に引き上げられる。その結果その投資分野では資金ショートが生じて、システム全体が崩壊せざるをえないようなメカニズムが出来上がっている。
サブプライム・ローン問題がいつまでも長引くと、アメリカの金融システム全体が揺らぐことになりかねない。どうやら米政府は、この問題に深刻な危機感を感じ始めたようである。
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