羽田のアナゴ料理屋

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仕事の縁で親しくしている人が数人いて、節目節目に都内の料理屋に集まっては、銘酒を堪能し料理に舌鼓を打ちながら、浮世話に花を咲かせるのを楽しみにしている。この度は筆者ともう一人の男(K氏)が定年で勤めていた職場を去ることとなったので、他の連中が我々の送別会に事寄せて、久しぶりに集まろうということになった。

場所は羽田の穴守稲荷の近所である。大鳥居の付近で仕事をしている男(S氏)が、うまいものを食わせる店があるといって、幹事役のM女史に紹介したのだった。

集合時間の6時半に間に合うように神田岩本町の勤め先を出発し、馬喰横山から羽田行き直通の京急電車に乗った。穴守稲荷駅で下車すると、仲間のF氏と鉢合わせたので、二人で肩を並べて目的の店に向かう。海に近いらしく、潮の匂いが漂ってくる。店は大鳥居から羽田空港に通ずる産業道路に面して立っていた。淀という名の、うっかり見過ごしてしまうような小さな店である。

店の中にはK氏が先に来て、テーブルに座っていた。メンバーは他に3人いるが、揃うまでに時間がかかりそうだというので、先行の三人で始めることとした。とりあえずは刺身をつまみながら、生ビールののど越しのさわやかさを楽しんだ次第だ。

そうこうするうちに二人(S氏とSA氏)加わり5人になった。この店の名物アナゴ料理を食うにはいい潮時である。S氏があらかじめ差配してあったらしく、料理はコースに乗って次々と出てきた。

まずアナゴの煮こごりが出た。豆腐ほどの大きさで、これだけでも食いでがある。ついでアナゴの塩焼きが出て、天麩羅が出た。天麩羅にはアナゴのほか、キス、ハゼ、メゴチが入っている。いずれも江戸前で取れた魚ばかりという。

店のお上によれば、このあたりは戦後はただの原っぱだったところだ。そこへ小屋掛けの店がぼちぼち出来て、江戸前の魚を食わせるようになると、次第に人が集まってきて、賑やかさを呈するようになった。この店はその中でも老舗の口で、地元では人気があるらしい。我々のほかには、地元の人と一見してわかる下駄履き姿が目立った。この店をM女史に紹介したS氏も、近所の事業所に勤めているので、地元民のようなものだ。

8時を過ぎて肝心の幹事役でメンバーの紅一点たるM女史も現れた。早く来るつもりが、急な仕事のために身をとられてしまったのだという。それも一つだけではなく、三つも非常事態が重なったのよと、弁解これしきりである。

いよいよアナゴ鍋が始まった。大きく切ったアナゴの実が、鍋の中にびっしりと詰まっている。出汁は醤油であっさりとした味、酒の肴としては最高のご馳走だ。下町の飲屋らしく料理に気取りをいれず、素材のうまさをそのままに味わうといった風である。

具を食い終わると、出汁でおじやを作ってくれた。これがまたうまい。まさにアナゴ三昧を堪能した次第だ。

時間を忘れて飲み食いかつ談笑するうちにも、10時を過ぎたのを潮時に外へ出ようとすれば、雨車軸の如し、それこそバケツを覆したようなすさまじい降りようだ。それでも小半時で勢いが収まったので、その期を生かして駅まで歩き、都心へと向かう電車に乗った。

同行の諸氏は皆満足した様子で、そのうちまたうまいものを食いに集まろうと約して別れた。

筆者はほろ酔い加減で車中眠り込み、船橋で降りるべきところを津田沼まで乗り越してしまった。上りの電車はもうない。仕方なくタクシーを捕まえて帰り、午前様となった次第。歳を忘れて快楽にふけった報いだ。


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    このページは、が2008年9月 1日 18:44に書いたブログ記事です。

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