杜甫の五言律詩「雪に對す」(壺齋散人注)
戰哭多新鬼 戰哭 多くは新鬼なり
愁吟獨老翁 愁吟するは獨り老翁
亂雲低薄暮 亂雲 薄暮に低(た)れ
急雪舞回風 急雪 回風に舞ふ
瓢棄尊無綠 瓢棄てられて 尊に綠(さけ)無く
爐存火似紅 爐存して 火は紅に似たり
數州消息斷 數州 消息斷ゆ
愁坐正書空 愁ひ坐して正に空に書す
戦場で叫んでいるのは死んだ者たちの魂だ、生きて嘆き悲しんでいるのは独り老翁のみ、乱雲が薄暮の空に立ち込め、雪が風にあおられて舞っている
捨てられた瓢に酒はなく、囲炉裏ばかりが赫々と燃え盛っている、数州の消息が絶えたままだ、かくては憂いのうちに座して、指で空中に文字をかくばかり
至徳元年の冬に書かれたものだろう。陳陶、青阪と二度にわたる敗戦で死んだ兵士たちに思いをはせながら、胡軍が占領する都の惨状を嘆いたものと思われる。
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