先日(九月七日)チベット国境に近いインド北部の村、ヒマチャル・プラデシュ州ギウで、チベット人僧侶のミイラが発見された。(上の写真 AP提供)
チベット版の即身仏ともいえるこのミイラは、今から500年ほど前に生きていた僧侶のものだ。その頃のチベットでは、即身成仏信仰が盛んに行われていたらしく、ヒマラヤの山中から、当時出来たと思われるミイラが多数発見されている。とくに1975年の地震の衝撃で、崩壊した地面の中からミイラを安置していた空間が露出し、そこから多くの仏が姿を現した。今回はインドの国境警備隊が山中をパトロールしている最中、偶然に見つけたという。
写真を見てわかるとおり、ミイラの保存状態は非常によい。これまでに発見された即身仏と比較して、生きた人間の形にもっとも近い。皮膚には艶があるし、左目には瞳のあとまで残っている。
両膝を立ててそのひとつにあごを乗せ、膝の間から固く握り締めた手が覗いているポーズは、他の多くのミイラと共通している。このポーズが死ぬ前から続けられていたか、あるいは死後に施されたものか、厳密にはわからないが、もし死ぬ前からだとしたら、この僧侶は想像を絶する意思の持ち主だったといえよう。
即身仏あるいは即身成仏といえば日本人にも馴染みが深い。むしろ世界中に即身仏が知られるようになったのは、日本のミイラによってだ。生きたまま入定することによって、魂も肉体も永遠性を保つという思想が背景にある。
チベット人にとっても、その辺の事情は同じらしい。500年の時空を超えて蘇ったミイラたちは、尊い仏として、人々の厚い信仰を集めているという。
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