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「カナの婚礼」と題したこの作品は、ボス研究家たちによってさまざまな解釈が加えられてきた。彼らの大方の共通意見は、ヨハネ福音書の中のキリストの最初の奇跡の場面を描いたものということだ。ガリラヤのカナというところで婚礼に臨んだ聖母マリアとキリストの物語である。マリアの意思に従って、キリストが樽の中の水を酒にかえて、出席者に振る舞ったというものだ。画面右下に6個の樽が描かれ、そのうちのひとつに男が水を注いでいる。この水が酒に変化するわけだ。

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中世の末期にはキリスト磔刑のシーンが画家たちにとってもっとも重要なテーマだった。あるものはそこに深い宗教的な感情を盛り込もうとし、あるものは人間性の邪悪と清浄さの対立をもり込もうとし、あるものは受難の神聖さを表現しようとした。ボスの場合はどうか。

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十字架を担うキリストの像は中世末期の画家が好んで取り上げたテーマだ。ボスも少なくとも三点描いている。そのなかで最も初期のものと思われるのがこの作品、もともとは三連式の祭壇画の左翼だったのではないかと推測されている。おそらく中央部にはキリストの磔刑のシーン、右翼部にはキリストの埋葬あるいは昇天のシーンが描かれていたはずだという。

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「この人を見よ」と題したボスの二枚目の絵は、トルネイの考証によれば、もっと大きな絵の一部だったらしい。他の部分がどのようなものだったが、今となってはまったくわからないが、残されたこの部分だけでも、それなりに完結した世界を描き出しているといえる。

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中世末期の宗教画にとって最も人気のあったテーマはキリストの受難であるが、キリスト誕生を取り上げた「東方三賢王の礼拝」も多くの画家によって描かれた。ボスにも少なくとも二作ある。ここにある絵はボスの初期に属すると思われる作品だ。

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同時代の多くの画家と同じように、ボスもまた宗教画の制作から、画業を始めたと考えられる。キリストの受難や聖人たちの事績など、聖書に題材をとった写実的な絵画が、当時の画家たちの主な仕事であった。ファン・エイクのようにブルジョワの肖像画を描くような画家がいなかったわけではないが、やはり絵の主流は宗教画だっただろう。

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ヒエロノムス・ボス(Hieronymus Bosch)は1450年ごろに生まれ、1516年に死んだということになっているから、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)とほぼ同じ、というか全くの時代人である。ボスはネーデルラント、ダ・ヴィンチはイタリアで生きたわけだが、彼らの住んでいた世界が異なっていたように、彼らの芸術もまた殆ど似たところがない。

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嵐の海と呼ばれるこの絵はブリューゲル最後の作品だろうといわれている。作品の完成度が低いのは、恐らく時間ぎれとなってしまった結果ではないか。

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盲人たちに対すると同様、ブリューゲルは乞食たちも容赦ない目で観察して描いている。ブリューゲルの時代には、乞食たちは珍しい存在ではなかった。彼らは自分たちが乞食に陥らざるを得なかったそれぞれの事情に従って徒党を組み、お互いに助け合いながら生きていた。

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ブリューゲルは比較的初期の頃から、画面を埋める民衆の中に盲人の姿も忍び込ませてきた。かれらはこの絵にあるように、単独ではなく集団で行動する場合が多い。そんな彼らをブリューゲルは同情の目ではなく、突き放した目で観察している。

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黒い修道服を着た男の背後にみすぼらしいなりをした男の子が忍び寄って、男の財布をかすめ取ろうとしている。男の子が入っているガラスの地球儀は人間の略奪を表しているという。画面の下部にはフランドル語で「世界が不実であるゆえに、私は喪に服す」と書かれている。

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ブリューゲルの伝記を書いたファン・マンデルは、「絞首台の上のカササギ」を、ブリューゲルが妻への遺贈品として描いたものだと指摘した。そんなところから、この作品は彼の画業の総決算として受け取られてきた。

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一見のどかな農村風景をえがいたこの絵は、ネーデルラントの諺、「鳥の巣がどこにあるかを知っているものは知識を持つが、それを取るものは巣を持つ」を形象化したのだと解釈されている。

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この絵は、「農民の踊り」、「農民の結婚式」の二部作より以前の1566年に描かれた。画面いっぱいに大勢の人物を配置し、それぞれに躍動感をもたせている。農民への愛情といい、豊かな色彩感といい、ブリューゲルの代表作というに相応しい作品だ。

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この絵は「農民の結婚式」とほぼ同じ時期に描かれたと思われる。全く同じ大きさの板で描かれ、色彩感覚にも共通するものがある。

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「農民の結婚式」と呼ばれるこの絵は、次の「農民の踊り」とともに、ブリューゲルが「農民画家」というレッテルを張られるきっかけを作った画だ。ブリューゲル自身は農民の出身ではなく、洗練されたインテリであったらしいが、こうした絵を見る限り、いかにも骨太で、土の匂いを感じさせる雰囲気に満ちている。

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晩年のブリューゲルは農村に生きる人々を良く描いた。今日ブリューゲルの代表作として伝わるこれらの絵は、婚礼や祭を生き生きと踊り暮し、またたっぷりと物を食う人間として描かれている。伝統的な絵画が、人間の自然とは異なった面を強調していたのに対し、ブリューゲルは人間の自然との連続性に光をあてたのだった。

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サウロの回心の話は聖書の「使徒列伝」の中に出てくる。ダマスカスに向かっていたサウロの部隊がダマスコ近くに差し掛かった時、イエス・キリストの声がサウロに話しかけ回心をせまったという話だ。サウロは回心したのちパウロとなって、キリストの教えを広めるようになる。

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この絵は洗礼者ヨハネの説教に借りて、同時代のプロテスタントの集会を描いたのだと解釈されている。ヨハネはネーデルランドで優勢な再洗礼派の宗教的な支柱であった。

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ヘロデ王による嬰児虐殺はマタイの福音書に出てくる話だ。新しい王がベツレヘムに生まれたと、東方の三博士から聞いたヘロデ王が、自分の王位が奪われるのを恐れて、ベツレヘムにいる2歳未満の男児をすべて殺せと命じたエピソードだ。

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