漢詩と中国文化


杜甫の七言律詩「江亭」(壺齋散人注)

  坦腹江亭臥  腹を坦いで江亭に臥し
  長吟野望時  長吟す野望の時
  水流心不競  水流れて心競はず
  雲在意俱遲  雲在りて意俱に遲し
  寂寂春將晚  寂寂として春將に晚れんとし
  欣欣物自私  欣欣として物自ら私す
  故林歸未得  故林歸ること未だ得ず
  排悶強裁詩  悶を排して強く詩を裁せん

杜甫の七言律詩「春夜に雨を喜ぶ」(壺齋散人注)

  好雨知時節  好雨時節を知り
  當春乃發生  春に當って乃ち發生す
  隨風潛入夜  風に隨って潛んで夜に入り
  潤物細無聲  物を潤して細やかにして聲無し
  野徑雲俱黑  野徑雲俱に黑く
  江船火獨明  江船火獨り明らかなり
  曉看紅濕處  曉に紅濕ふ處を看れば
  花重錦官城  花は重し錦官城

杜甫の七言律詩「客至る」(壺齋散人注)

  舍南舍北皆春水  舍南舍北皆春水
  但見群鷗日日來  但見る群鷗の日日に來るを
  花徑不曾緣客掃  花徑曾て客に緣って掃はず
  篷門今始為君開  篷門今始めて君が為に開く
  盤飧市遠無兼味  盤飧市遠くして兼味無く
  樽酒家貧只舊醅  樽酒家貧しくして只舊醅あるのみ
  肯與鄰翁相對飲  肯へて鄰翁と相對して飲まんや
  隔籬呼取盡餘杯  籬を隔てて呼取して餘杯を盡くさしむ

杜甫の七言律詩「別れを恨む」(壺齋散人訳)

  洛城一別四千裡  洛城一別 四千裡
  胡騎長驅五六年  胡騎長驅す五六年
  草木變衰行劍外  草木變衰して劍外に行き
  兵戈阻絕老江邊  兵戈阻絕して江邊に老ゆ
  思家步月清宵立  家を思ひ月に步して清宵に立ち
  憶弟看雲白日眠  弟を憶ひ雲を看て白日に眠る
  聞道河陽近乘勝  聞く道(な)らく河陽近ごろ勝に乘ずと
  司徒急為破幽燕  司徒急に為に幽燕を破れ

杜甫の七言律詩「南鄰」(壺齋散人注)

  錦裡先生烏角巾  錦裡先生烏の角巾
  園收芋栗未全貧  園に芋栗を收めて未だ全く貧ならず
  慣看賓客兒童喜  賓客を看るに慣れて兒童喜び
  得食階除鳥雀馴  階除に食するを得て鳥雀馴る
  秋水才深四五尺  秋水才(わづか)に深し四五尺
  野航恰受兩三人  野航恰(あたか)も受く兩三人
  白沙翠竹江村暮  白沙翠竹江村の暮
  相送柴門月色新  相ひ送れば柴門に月色新たなり

杜甫の七言律詩「野老」(壺齋散人注)

  野老籬邊江岸回  野老の籬邊江岸回り
  柴門不正逐江開  柴門正しからず江を逐って開く
  漁人網集澄潭下  漁人の網は集る澄潭の下
  賈客船隨返照來  賈客の船は返照に隨って來る
  長路關心悲劍閣  長路關心劍閣を悲しむ
  片雲何意傍琴台  片雲何の意ありてか琴台に傍ふ
  王師未報收東郡  王師未だ報ぜず東郡を收むると
  城闕秋生畫角哀  城闕秋生じて畫角哀し

杜甫の七言律詩「江村」(壺齋散人注)

  清江一曲抱村流  清江一曲村を抱いて流れ
  長夏江村事事幽  長夏江村事事に幽かなり
  自去自來梁上燕  自ら去り自ら來る梁上の燕
  相親相近水中鷗  相ひ親しみ相ひ近づく水中の鷗
  老妻畫紙為棋局  老妻紙に畫きて棋局と為し
  稚子敲針作釣鉤  稚子針を敲いて釣鉤と作す
  多病所須惟藥物  多病須ふる所は惟れ藥物
  微躯此外更何求  微躯此の外に更に何をか求めん

杜甫の七言律詩「狂夫」(壺齋散人注)

  萬裡橋西一草堂  萬裡橋の西の一草堂
  百花潭水即淪浪  百花潭の水即ち淪浪
  風含翠篠娟娟淨  風を含める翠篠娟娟として淨き
  雨裛紅蕖冉冉香  雨に裛(つつ)まる紅蕖冉冉として香し
  厚祿故人書斷絕  厚祿の故人書斷絕す
  恆饑稚子色淒涼  恆饑の稚子色淒涼たり
  欲填溝壑唯疏放  溝壑に填ぜんと欲するも唯疏放
  自笑狂夫老更狂  自ら笑ふ狂夫の老いて更に狂するを

杜甫の五言律詩「客有り」(壺齋散人注)

  患氣經時久  氣を患ひて時を經ること久しく
  臨江卜宅新  江に臨んで宅を卜すること新し
  喧卑方避俗  喧卑 方に俗を避け
  疏快頗宜人  疏快 頗る人に宜し
  有客過茅宇  客有りて茅宇を過ぐ
  呼兒正葛巾  兒を呼びて葛巾を正す
  自鋤稀菜甲  自ら鋤けば菜甲稀なり
  小摘為情親  小しく摘むは情親の為なり

杜甫の五言絶句「絶句二首其二」(壺齋散人注)

  江碧鳥逾白  江碧にして鳥逾(いよ)いよ白く
  山青花欲然  山青くして花然(も)えんと欲す
  今春看又過  今春又過ぐるを看る
  何日是帰年  何れの日か是れ帰る年ならん

杜甫の五言絶句「絶句二首其一」(壺齋散人注)

  遅日江山麗  遅日 江山麗はしく
  春風花草香  春風 花草香し
  泥融飛燕子  泥融けて燕子飛び
  沙暖睡鴛鴦  沙暖かくして鴛鴦睡る

杜甫の七言律詩「蜀相」(壺齋散人注)

  丞相祠堂何處尋  丞相の祠堂何れの處にか尋ねん
  錦官城外柏森森  錦官城外 柏森森
  映階碧草自春色  階に映ずる碧草 自から春色
  隔葉黃鸝空好音  葉を隔つる黃鸝 空しく好音
  三顧頻煩天下計  三顧頻煩たり天下の計
  兩朝開濟老臣心  兩朝開濟たり老臣の心
  出師未捷身先死  出師未だ捷(か)たずして身先ず死し
  長使英雄淚滿襟  長へに英雄をして淚襟に滿たしむ

杜甫の七言律詩「堂成る」(壺齋散人注)

  背郭堂成蔭白茅  背郭堂成り白茅に蔭はる
  綠江路熟俯青郊  綠江路熟して青郊に俯す
  榿林礙日吟風葉  榿林日を礙(さへぎ)る風に吟ずるの葉
  籠竹和煙滴露梢  籠竹煙に和す露を滴すの梢
  暫止飛烏將數子  暫く止る飛烏 滴數子を滴(ひき)ひ
  頻來語燕定新巢  頻りに來る語燕 新巢を定む
  旁人錯比揚雄宅  旁人錯って比す 揚雄が宅
  懶惰無心作解嘲  懶惰にして解嘲を作るに心無し

杜甫の七言律詩「居を卜す」(壺齋散人注)

  浣花溪水水西頭  浣花溪水 水の西頭
  主人為卜林塘幽  主人為に卜す林塘の幽なるを
  已知出郭少塵事  已に知る郭を出でて塵事少きを
  更有澄江銷客愁  更に澄江の客愁を銷ざす有り
  無數蜻蜓齊上下  無數の蜻蜓 齊しく上下し
  一雙鸂鶒對沈浮  一雙の鸂鶒 對して沈浮す
  東行萬裡堪乘興  東行萬裡 興に乘ずるに堪えたり
  須向山陰上小舟  須らく山陰に向かって小舟に上るべし

杜甫の五言古詩「劍門」(壺齋散人注)

  惟天有設險  惟れ天の險を設くる有り
  劍門天下壯  劍門は天下の壯
  連山抱西南  連山西南を抱へ
  石角皆北向  石角皆北に向かふ
  兩崖崇墉倚  兩崖崇墉倚り
  刻畫城郭狀  刻畫城郭の狀あり
  一夫怒臨關  一夫怒って關に臨めば
  百萬未可傍  百萬も未だ傍ふ可からず

杜甫の五言古詩「龍門閣」(壺齋散人注)

  清江下龍門  清江龍門より下る
  絕壁無尺土  絕壁尺土無し
  長風駕高浪  長風高浪に駕し
  浩浩自太古  浩浩たること太古よりす
  危途中縈盤  危途中ごろ縈盤す
  仰望垂線縷  仰ぎ望めば線縷垂る
  滑石欹誰鑿  滑石の欹(かたむ)けるは誰か鑿てる
  浮梁裊相拄  浮梁裊として相拄(さそ)ふ

杜甫の五言古詩「水會渡」(壺齋散人注)

  山行有常程  山行 常程有り
  中夜尚未安  中夜尚ほ未だ安んぜず
  微月沒已久  微月沒して已に久し
  崖傾路何難  崖傾いて路何ぞ難き
  大江動我前  大江我が前に動き
  洶若溟渤寬  洶として溟渤の寬なるが若し
  蒿師暗理楫  蒿師暗に楫を理め
  歌笑輕波瀾  歌笑して波瀾を輕んず

杜甫の雑言古詩「乾元中同穀縣に寓居して歌を作る」(壺齋散人注)

  有客有客字子美  客有り客有り字は子美
  白頭亂發垂過耳  白頭亂發 垂れて耳を過ぐ
  歲拾橡栗隨狙公  歲々橡栗を拾ふて狙公に隨ふ
  天寒日暮山谷裡  天は寒く日は暮る山谷の裡
  中原無書歸不得  中原書無く歸り得ず
  手腳凍皴皮肉死  手腳凍皴皮肉死す
  嗚呼一歌兮歌已哀 嗚呼(ああ)一歌すれば歌已に哀し
  悲風為我從天來  悲風我が為に天より來る 

杜甫の五言古詩「鐵堂峽」(壺齋散人注)

  山風吹遊子  山風 遊子を吹き
  縹緲乘險絕  縹緲 險絕に乘ず
  峽形藏堂隍  峽形 堂隍を藏し
  壁色立精鐵  壁色 精鐵立つ
  徑摩穹蒼蟠  徑は穹蒼を摩して蟠り
  石與厚地裂  石は厚地と裂く
  修纖無垠竹  修纖なり無垠の竹
  嵌空太始雪  嵌空なり太始の雪

杜甫の五言古詩「赤穀」(壺齋散人注)

  天寒霜雪繁  天寒くして霜雪繁し
  遊子有所之  遊子之く所有り
  豈但歲月暮  豈に但に歲月の暮るるのみならんや
  重來未有期  重ねて來ること未だ期有らず
  晨發赤穀亭  晨に赤穀の亭を發す
  險艱方自茲  險艱方に茲よりす
  亂石無改轍  亂石 轍を改むるなく
  我車已載脂  我が車已に脂を載せり

Previous 2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12




アーカイブ

Powered by Movable Type 4.24-ja

本日
昨日

最近のコメント

このアーカイブについて

このページには、過去に書かれたブログ記事のうち51)漢詩と中国文化カテゴリに属しているものが含まれています。

前のカテゴリは46)日本史覚書です。

次のカテゴリは52)中国古代の詩です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。