漢詩と中国文化


杜甫の五言律詩「江漢」(壺齋散人注)

  江漢思帰客  江漢 帰るを思ふ客
  乾坤一腐儒  乾坤 一腐儒
  片雲天共遠  片雲 天は共に遠く
  永夜月同弧  永夜 月は同じく弧なり
  落日心猶壯  落日 心は猶壯んに
  秋風病欲蘇  秋風 病は蘇えらんと欲す
  古来存老馬  古来老馬を存するは
  不必取長途  必ずしも長途に取らず

杜甫の五言律詩「潭州を發す 時に潭より衡にゆく」(壺齋散人注)

  夜醉長沙酒  夜に醉ふ長沙の酒
  曉行湘水春  曉に行く湘水の春
  岸花飛送客  岸花飛んで客を送り
  檣燕語留人  檣燕語って人を留む
  賈傅才未有  賈傅 才未だ有らず
  褚公書絕倫  褚公 書絶倫なり
  高名前後事  高名前後の事
  回首一傷神  首を回せて一に神を傷ましむ

杜甫の五言律詩「白沙驛に宿す(初めて湖南の五裏を過る)」(壺齋散人注)

  水宿仍餘照  水宿仍ほ餘照あり
  人煙複此亭  人煙複た此の亭
  驛邊沙舊白  驛邊沙舊(もと)白し
  湖外草新青  湖外草新たに青し
  萬象皆春氣  萬象皆春氣あり
  孤槎自客星  孤槎自づから客星
  隨波無限月  波に隨ふ無限の月
  的的近南溟  的的として南溟に近づく

歳晏行:杜甫

| トラックバック(0)

杜甫の七言排律「歳晏行」(壺齋散人注)

  歳云暮矣多北風  歳云(ここ)に暮れぬ矣北風多し
  瀟湘洞庭白雪中  瀟湘洞庭白雪の中
  漁父天寒網罟凍  漁父天寒くして網罟凍り
  莫徭射燕鳴桑弓  莫徭燕を射て桑弓を鳴らす
  去年米貴闕軍食  去年米貴くして軍食を闕く
  今年米賤太傷農  今年米賤しくして太だ農を傷ましむ
  高馬達官厭肉酒  高馬の達官肉酒に厭く
  此輩杼軸茅茨空  此の輩杼軸茅茨空し 

大暦3年(768)正月にキ州を去った杜甫の一家は再び船で長江を下り、江陵で数ヶ月滞在した後、その年の暮に洞庭湖北岸の岳州に到った。岳州にある岳陽樓は有名な楼で、古来さまざまな詩人によって歌われてきた。杜甫もまた先人にならってこの楼に上り、一編の詩を詠む。杜甫の晩年を飾る名作「岳陽樓に登る」だ。

杜甫の五言律詩「十七夜月に對す」(壺齋散人注)

  秋月仍圓夜  秋月仍ほ圓き夜
  江村獨老身  江村獨り老ゆる身
  捲簾還照客  簾を捲けば還た客を照らし
  倚杖更隨人  杖に倚れば更に人に隨ふ
  光射潛虯動  光は潛虯を射て動かしめ
  明翻宿鳥頻  明は宿鳥を翻すこと頻なり
  茅齋依橘袖  茅齋橘袖に依る
  清切露華新  清切露華新たなり

杜甫の七言古詩「縛鶏行」(壺齋散人注)

  小奴縛鶏向市売  小奴鶏を縛して市に向って売る
  鶏被縛急相喧争  鶏縛さるること急にして相ひ喧争す
  家中厭鶏食虫蟻  家中鶏の虫蟻を食ふことを厭ひ
  不知鶏売遷遭烹  鶏の売らるれば遷た烹らるるに遭ふを知らず
  虫鶏於人何厚薄  虫鶏人に於て何の厚薄あらん
  我叱奴人解其縛  我奴人を叱って其の縛めを解かしむ
  鶏虫得失無了時  鶏虫の得失了る時無し
  注目寒河倚山閣  目を寒河に注ぎて山閣に倚る

杜甫の七言律詩「負薪行」(壺齋散人注)

  夔州處女髪半華  夔州の處女は髪半ば華なり
  四十五十無夫家  四十五十にして夫家無し
  更遭喪亂嫁不售  更に喪亂に遭ひて嫁售れず
  一生抱恨長咨嗟  一生恨を抱いて長(とこしへ)に咨嗟す
  土風坐男使女立  土風男を坐せしめ女をして立たしむ
  男當門戶女出入  男は門戶に當たり女は出入す
  十猶八九負薪歸  十猶八九薪を負ひて歸り
  賣薪得錢應供給  薪を賣り錢を得て應に供給す

杜甫の七言律詩「登高」(壺齋散人注)

  風急天高猿嘯哀  風急に天高くして猿嘯くこと哀し
  渚清沙白鳥飛回  渚清く沙白くして鳥飛び回る
  無邊落木蕭蕭下  無邊の落木蕭蕭として下り
  不盡長江袞袞來  不盡の長江袞袞として來る
  萬里悲秋常作客  萬里悲秋常に客と作(な)り
  百年多病獨登臺  百年多病獨り臺に登る
  艱難苦恨繁霜鬢  艱難苦(はなは)だ恨む繁霜の鬢
  潦倒新停濁酒杯  潦倒新たに停む濁酒の杯

杜甫の七言絶句「詠懐其五」(壺齋散人注)

  諸葛大名垂宇宙  諸葛の大名宇宙に垂れ
  宗臣遺像肅清高  宗臣の遺像肅として清高
  三分割據紆籌策  三分割據籌策を紆(めぐ)らせ
  萬古雲霄一羽毛  萬古雲霄一羽毛
  伯仲之間見伊呂  伯仲之間に伊呂を見る
  指揮若定失蕭曹  指揮若し定まらば蕭曹を失せん
  福移漢祚難恢復  福移りて漢祚恢復し難し
  志決身殲軍務勞  志決するも身は殲ぶ軍務の勞に

杜甫の七言律詩「詠懐其四」(壺齋散人注)

  蜀主窺吳幸三峽  蜀主吳を窺ひて三峽に幸(みゆき)す
  崩年亦在永安宮  崩年亦永安宮に在り
  翠華想像空山裏  翠華想像す空山の裏
  玉殿虛無野寺中  玉殿虛無なり野寺の中
  古廟杉松巢水鶴  古廟の杉松に水鶴巢くひ
  歲時伏臘走村翁  歲時伏臘に村翁走る
  武侯祠屋常鄰近  武侯の祠屋常に鄰近
  一體君臣祭祀同  一體の君臣祭祀同じ

杜甫の七言絶句「詠懐其三」(壺齋散人注)

  群山萬壑赴荊門  群山萬壑荊門に赴く
  生長明妃尚有村  明妃を生長す村有り
  一去紫台連朔漠  一たび紫台を去って朔漠に連なり
  獨留青塚向黃昏  獨り青塚を留めて黃昏に向ふ
  畫圖省識春風面  畫圖省識す春風の面
  環佩空歸月夜魂  環佩空しく歸る月夜の魂
  千載琵琶作胡語  千載琵琶胡語を作す
  分明怨恨曲中論  怨恨を分明して曲中に論ず

杜甫の七言律詩「詠懐其二」(壺齋散人注)

  搖落深知宋玉悲  搖落深く知る宋玉の悲しみ
  風流儒雅亦吾師  風流儒雅亦吾が師なり
  悵望千秋一灑淚  千秋を悵望して一に淚を灑ぎ
  蕭條異代不同時  蕭條異代時を同じくせず
  江山故宅空文藻  江山の故宅空しく文藻
  雲雨荒台豈夢思  雲雨荒台豈に夢思せんや
  最是楚宮俱泯滅  最も是れ楚宮俱に泯滅せり
  舟人指點到今疑  舟人指點して今に到りて疑ふ

杜甫の七言律詩「古跡を詠懷す五首其一」(壺齋散人注)

  支離東北風塵際  支離たり東北風塵の際
  漂泊西南天地間  漂泊す西南天地の間
  三峽樓臺淹日月  三峽の樓臺日月淹(ひさ)しく
  五溪衣服共雲山  五溪の衣服雲山を共にす
  羯胡事主終無賴  羯胡主に事へて終に無賴
  詞客哀時且未還  詞客時を哀しみて且つ未だ還らず
  庾信平生最蕭瑟  庾信平生最も蕭瑟たり
  暮年詩賦動江關  暮年詩賦江關を動かす

杜甫の七言律詩「秋興其八」(壺齋散人注)

  昆吾禦宿自逶迤  昆吾禦宿自づから逶迤たり
  紫閣峰陰入渼陂  紫閣峰陰渼陂に入る
  香稻啄餘鸚鵡粒  香稻啄み餘す鸚鵡の粒
  碧梧棲老鳳凰枝  碧梧棲み老ゆ鳳凰の枝
  佳人拾翠春相問  佳人の拾翠春相ひ問ふ
  仙侶同舟晚更移  仙侶同舟晚に更に移る
  彩筆昔曽干氣象  彩筆昔曽て氣象を干す
  白頭吟望苦低垂  白頭吟望低垂に苦しむ

杜甫の七言律詩「秋興其七」(壺齋散人注)

  昆明池水漢時功  昆明の池水漢時の功
  武帝旌旗在眼中  武帝の旌旗眼中に在り
  織女機絲虛月夜  織女の機絲月夜に虛しく
  石鯨鱗甲動秋風  石鯨の鱗甲秋風に動く
  波漂菰米沈雲黑  波は菰米を漂はせて沈雲黑く
  露冷蓮房墜粉紅  露は冷やかしにて蓮房墜粉紅なり
  關塞極天唯鳥道  關塞 極天 唯鳥道
  江湖滿地一漁翁  江湖 滿地 一漁翁

杜甫の七言律詩「秋興其六」(壺齋散人注)

  瞿唐峽口曲江頭  瞿唐峽口 曲江の頭
  萬里風煙接素秋  萬里 風煙 素秋に接す
  花萼夾城通禦氣  花萼 夾城 禦氣通じ
  芙蓉小苑入邊愁  芙蓉 小苑 邊愁に入る
  朱簾繡柱圍黃鶴  朱簾 繡柱 黃鶴圍み
  錦纜牙檣起白鷗  錦纜 牙檣 白鷗起つ
  回首可憐歌舞地  首を回らせば憐むべし歌舞の地
  秦中自古帝王州  秦中は古より帝王の州

杜甫の七言律詩「秋興其五」(壺齋散人注)

  蓬萊宮闕對南山  蓬萊の宮闕南山に對す
  承露金莖霄漢間  承露の金莖霄漢の間
  西望瑤池降王母  西のかた瑤池を望めば王母降る
  東來紫氣滿函關  東來の紫氣函關に滿つ
  雲移雉尾開宮扇  雲移りて雉尾宮扇を開く
  日繞龍鱗識聖顏  日は龍鱗を繞りて聖顏を識る
  一臥滄江驚歲晚  一たび滄江に臥して歲の晩るるに驚く
  幾回青瑣照朝班  幾回か青瑣朝班を照らせし

杜甫の七言律詩「秋興其四」(壺齋散人注)

  聞道長安似弈棋  聞くならく長安弈棋に似たりと
  百年世事不勝悲  百年世事悲しみに勝へず
  王侯第宅皆新主  王侯の第宅皆新主
  文武衣冠異昔時  文武の衣冠昔時に異なる
  直北關山金鼓振  直北關山金鼓振るひ
  征西車馬羽書馳  征西車馬羽書馳す
  魚龍寂寞秋江冷  魚龍寂寞として秋江冷やかなり
  故國平居有所思  故國平居思ふ所有り

杜甫の七言律詩「秋興其三」(壺齋散人注)

  千家山郭靜朝暉  千家山郭朝暉靜かに
  一日江樓坐翠微  一日江樓翠微に坐す
  信宿漁人還泛泛  信宿の漁人還た泛泛たり
  清秋燕子故飛飛  清秋の燕子故(ことさら)に飛飛たり
  匡衡抗疏功名薄  匡衡疏を抗(あ)げて功名薄く
  劉向傳經心事違  劉向經を傳へんとして心事違ふ
  同學少年多不賤  同學の少年多く賤しからず
  五陵衣馬自輕肥  五陵の衣馬自づから輕肥

Previous 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11




アーカイブ

Powered by Movable Type 4.24-ja

本日
昨日

最近のコメント

このアーカイブについて

このページには、過去に書かれたブログ記事のうち51)漢詩と中国文化カテゴリに属しているものが含まれています。

前のカテゴリは46)日本史覚書です。

次のカテゴリは52)中国古代の詩です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。