詩人の魂


ステファヌ・マラルメの詩「ボードレールの墓」Le Tombeau de Baudelaire を読む。(壺齋散人訳)

  埋まった宮殿の排水口の奥にのぞいているのは
  墓の中からよだれのように染み出たガラクタども
  ぞっとするようなアヌビスの彫像
  その獣のようにとがった鼻面
 

ステファヌ・マラルメの詩「エドガー・ポーの墓」Le Tombeau d'Edgar Poe を読む。(壺齋散人訳)

  ついに永遠が彼自身の姿となって現れたかのように
  詩人が諸刃の剣を振りかざして起き上がると
  同時代人たちは改めて思い知らされるのだ
  この奇怪な声の中に勝ち誇っている死のことを

ステファヌ・マラルメの詩「マラルメ嬢の扇」 Autre Éventail de Mademoiselle Mallarmé を読む。(壺齋散人訳)

  夢多き子よ 道なき道をたどり
  お前の純粋な喜びのうちに浸れるように
  嘘でもよいから言っておくれ
  私の翼をお前の手で受け止めてくれると

ステファヌ・マラルメの詩「マラルメ夫人の扇」 Éventail de Madame Mallarméを読む。(壺齋散人訳)

  言霊を振り放つような
  あなたの扇の一振りが
  未来の詩句を解き放つ
  その貴重な棲家から

ステファヌ・マラルメの詩「鐘を撞く男」を読む。(壺齋散人訳)

  鐘が美しい音色をたてて
  朝の澄み渡った空気に響き渡り
  ラヴェンダーとタイムの花に囲まれ
  祈りを捧げる子どもに届く

ステファヌ・マラルメの詩集「苦悩」Angoisse を読む。(壺齋散人訳)

  人間の罪に満ちた獣よ 今宵はお前の肉体を
  征服するためにきたのではない
  またお前の不純な髪を我が接吻で倦怠に包み
  悲しい嵐をかき回そうとも思わぬ

ステファヌ・マラルメの詩「空しい祈り」 Placet futile を読む。(壺齋散人訳)

  王女さま! へベが担いだ壺から水が流れ出し
  それがあなたの唇を潤すさまが妬ましくて
  わたしはわたしで火を使う でも司祭のようにではなく
  またセーブルの皿にあなたの裸体を描くこともしない

ステファヌ・マラルメの詩「あらわれ」Apparition(壺齋散人訳)

  月は悲しみに沈んでいた
  涙にくれた翼の天使が夢見心地に弓を持ち
  湿った花々に囲まれながら ビオラを弾くと
  白く咽ぶ音は紺碧の花弁の上をすべっていった

ステファヌ・マラルメの詩「乾杯」Salut を読む。(壺齋散人訳)

  この泡と 処女なる詩が
  描かれているのは聖餐の杯
  彼方ではシレーヌの一群が溺れ
  みな身を逆さにしている

ステファヌ・マラルメ Stéphane Mallarmé (1842-1898) は、ポール・ヴェルレーヌやアルチュール・ランボーと並んでフランスの象徴主義(サンボリズム)を代表する詩人である。しかし同じく象徴主義の名を冠せられても、マラルメの作品は他の誰にも似ることのない、独特の雰囲気をもっている。言語のシンタックスや意味にとらわれず、言葉の持つ音楽性と形態を自由に展開させたその作風は、歴史的にも先例をみないものである。だから彼は真の意味で、孤高の詩人というに相応しい。

レミ・ド・グールモンの詩集「気晴らし」 Divertissement から「不敬の祈り」Oraisons mauvaises を読む。(壺齋散人訳)

    Ⅰ

  お前の手に神の祝福を 汚れたお前の手に!
  お前の手の節々には罪が隠れている
  お前の手の白い皮の白っぽい陰の合間には
  秘めやかな愛撫の強烈な匂いが染み付いている
  お前の指先で死につつある囚われのオパール
  それは磔にされたキリストの最後の溜息だ

レミ・ド・グールモンの最後の詩集「気晴らし」 Divertissement は1912年に出版された。そのときグールモンは50をとっくに過ぎていたのであるが、その老いの情熱の中から、女の妖しい美しさを歌った一連の詩を生み出したのだった。それらはいわば彼にとっての白鳥の歌だったわけである。

枯葉 Les feuilles mortes :レミ・ド・グールモンの詩集「シモーヌ」 Simone から(壺齋散人訳)

  シモーヌ 森へ行こう 枯葉が落ちて
  コケや石畳や小道を覆っているよ

  シモーヌ 枯葉を踏む音が好きかい?

林檎畑 Le verger :レミ・ド・グールモンの詩集「シモーヌ」Simone から(壺齋散人訳)

  シモーヌ 林檎畑へ行こう
  枝で編んだバスケットをもって
  畑に入るときには
  林檎の木に語りかけよう
  林檎の季節が来たねと
  林檎畑へ行こう シモーヌ
  林檎畑へ行こうよ

レミ・ド・グールモンの詩は、堀口大学が精力的に翻訳して紹介したので、日本人にはなじみが深い。中でも詩集「シモーヌ」に収められた諸篇は、グールモンの雰囲気をよく表しているものとして、喜んで受け入れられた。この詩集の中にでてくるシモーヌは、特定の女性というのではなく、グールモンにとっての女性の原像のようなものだったらしい。


毛(壺齋散人訳)

  シモーヌ お前の毛の林の中は
  不思議なことだらけだ

  お前は干草の匂いがする
  お前は獣が寝そべった石の匂いがする
  お前はなめし皮の匂いがする
  お前は籾殻をとった麦の匂いがする
  お前は木の匂いがする
  お前は朝食のパンの匂いがする
  お前は廃墟の壁ぞいに咲いた
  花の匂いがする
  お前はブラックベリーの匂いがする
  お前は雨に洗われた蔓の匂いがする
  お前は夜の墓場で摘まれる
  イグサや羊歯の匂いがする
  お前はコケの匂いがする
  お前は生垣の陰に落ちた
  赤茶けた枯葉の匂いがする
  お前はイラクサや子馬の匂いがする
  お前はウマゴヤシやチーズの匂いがする
  お前はウイキョウやアニスの匂いがする
  お前はクルミの匂いがする
  お前は熟れた果実の匂いがする
  お前は柳の葉の匂いがする
  お前は花盛りのライムの匂いがする
  お前は蜜の匂いがする
  お前は草原を行く人の汗の匂いがする
  お前は大地と川の匂いがする
  お前は愛と火の匂いがする

  シモーヌ お前の毛の林の中は
  不思議なことだらけだ

レミ・ド・グールモンの詩集「天国の聖女たち」 Les Saintes du Paradis から「アガート」Agathe を読む。(壺齋散人訳)

レミ・ド・グールモン Rémy de Gourmont (1858-1915) はフランスのサンボリストを代表する作家の一人である。日本では詩人として知られているが、フランスにおいては生前より幅広い評論活動によって知られ、その独特の美学は、エズラ・パウンド Ezra Pound やエリオット T.S.Eliot など、英語圏の作家によって高く評価された。オールダス・ハックスレイ Aldous Huxley はグールモンの評論を英語に翻訳して紹介している。

パリの空の下 Sous le ciel de Paris は「望郷」Pépé le Moko で知られる映画監督ジュリアン・デュヴィヴィエ Julien Duvivier が1951年に公開した同名の映画の主題歌である。もともとはジュリエット・グレコ Juliette Greco が歌っていたが、エディット・ピアフ Edith Piaf やイヴ・モンタン Yves Montant も歌い、むしろグレコより人気を博した。

エディット・ピアフ Edith Piaf が歌ったシャンソン「三つの鐘」 Les Trois Cloches (壺齋散人訳)

「愛の讃歌」 L’hymne a l’amour は「バラ色の人生」 La vie en rose とともに、エディット・ピアフ Edith Piaf の代表的な曲である。ピアフ自ら作詩した。

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