漢詩と中国文化


744年(天宝三年)長安を追われた李白は黄河を下って魯(山東)へと向かった。その途中洛陽で杜甫と出会い、汴州で高適と出会う。意気投合した三人は共に河南に遊んだ。そして翌年の春、李白は魯の石門で杜甫と別れ、東魯の沙丘というところで結婚して家を持った。これは李白の三度目の結婚であり、妻との間に二人の子を設けている。後に「東魯の二稚子に寄す」という詩の中で歌っている子どもたちは、この結婚で生まれた子であると考えられる。

李白の五言律詩「酒に對して賀監を憶ふ」(壺齋散人注)

  四明有狂客  四明に狂客有り
  風流賀季真  風流なる賀季真
  長安一相見  長安に一たび相ひ見しとき
  呼我謫仙人  我を謫仙人と呼ぶ
  昔好杯中物  昔は杯中の物を好みしが
  今爲松下塵  今は松下の塵と爲れり
  金龜換酒處  金龜 酒に換へし處
  卻憶涙沾巾  卻って憶へば涙巾を沾す

李白の五言古詩「終南山を下り斛斯山人の宿を過りて置酒す」(壺齋散人注)

  暮從碧山下  暮に碧山より下れば
  山月隨人歸  山月人に隨って歸る
  卻顧所來徑  來る所の徑を卻顧すれば
  蒼蒼橫翠微  蒼蒼として翠微に橫はる
  相攜及田家  相ひ攜へて田家に及べば
  童稚開荊扉  童稚 荊扉を開く
  綠竹入幽徑  綠竹 幽徑に入り
  青蘿拂行衣  青蘿 行衣を拂ふ
  歡言得所憩  歡言 憩ふ所を得て
  美酒聊共揮  美酒 聊か共に揮ふ
  長歌吟松風  長歌 松風に吟じ
  曲盡河星稀  曲盡きて河星稀なり
  我醉君復樂  我醉へり君も復た樂しめ
  陶然共忘機  陶然として共に機を忘れん

李白の雑言古詩「將に酒を進めんとす」(壺齋散人注)

  君不見黄河之水天上來  君見ずや 黄河の水天上より來り
  奔流到海不復回      奔流して海に到り復た回(かへ)らざるを
  君不見高堂明鏡悲白髮  君見ずや 高堂の明鏡白髮を悲しみ
  朝如青絲暮成雪      朝には青絲の如くも暮には雪と成るを
  人生得意須盡歡      人生 意を得なば 須らく歡を盡くすべし
  莫使金樽空對月      金樽をして空しく月に對せしむる莫かれ
  天生我材必有用      天の我が材を生ずるや必ず用有り
  千金散盡還復來      千金は散じ盡くすも還た復た來らん
  烹羊宰牛且爲樂      羊を烹(に)牛を宰して且らく樂しみを爲さん
  會須一飲三百杯      會らず須らく一飲三百杯なるべし

李白の五言古詩「春日醉起して志を言ふ」(壺齋散人注)

  處世若大夢  世に處るは大夢の若し
  胡爲勞其生  胡爲(なんすれ)ぞ其の生を勞する
  所以終日醉  所以(ゆえ)に終日醉ひ
  頽然臥前楹  頽然として前楹に臥す
  覺來盼庭前  覺め來って庭前を盼(み)れば
  一鳥花間鳴  一鳥 花間に鳴く
  借問此何時  借問す 此れ何の時ぞ
  春風語流鶯  春風に 流鶯は語る
  感之欲歎息  之に感じて歎息せんと欲し
  對酒還自傾  酒に對すれば還た自から傾く
  浩歌待明月  浩歌して明月を待ち
  曲盡已忘情  曲盡きて已に情を忘る

李白の雑言古詩「前に一樽の酒有るの行(うた)」(壺齋散人注)

  琴奏龍門之綠桐  琴は奏す 龍門の綠桐
  玉壺美酒清若空  玉壺の美酒 清きこと空の若し
  催弦拂柱與君飲  弦を催し柱を拂って君と飲む
  看朱成碧顏始紅  朱を看て碧と成し顏始めて紅なり
  胡姫貌如花     胡姫は貌(かんばせ)花の如く
  當壚笑春風     壚に當たりて春風に笑ふ
  笑春風 舞羅衣   春風に笑ひ 羅衣を舞はしむ
  君今不醉欲安歸  君今醉はずして安(いづく)にか歸らんと欲する

李白の五言律詩「酒を待てど至らず」(壺齋散人注)

  玉壺繫青絲  玉壺 青絲に繫ぎ
  沽酒來何遲  酒を沽(か)って來ること何ぞ遲き
  山花向我笑  山花 我に向って笑ふ
  正好銜杯時  正に杯を銜むに好き時
  晩酌東窗下  晩酌す 東窗の下
  流鶯復在茲  流鶯復た茲に在り
  春風與醉客  春風と醉客と
  今日乃相宜  今日乃ち相ひ宜し

李白の五言古詩「月下独酌」四首其一(壺齋散人注)

  花間一壺酒  花間 一壺の酒
  独酌無相親  独り酌みて相ひ親しむ無し
  挙杯邀明月  杯を挙げて明月を邀へ
  対影成三人  影に対して三人と成る
  月既不解飲  月既に飲むを解せず
  影徒随我身  影徒らに我が身に随ふ
  暫伴月将影  暫らく月と影とを伴って
  行樂須及春  行樂須らく春に及ぶべし
  我歌月徘徊  我歌へば月徘徊し
  我舞影零乱  我舞へば影零乱す
  醒時同交歓  醒むる時同(とも)に交歓し
  醉后各分散  醉ひて后は各おの分散す
  永結無情遊  永く無情の遊を結び
  相期邈雲漢  相ひ期せん 邈(はる)かなる雲漢に

李白の雑言古詩「灞陵行送別」(壺齋散人注)

  送君灞陵亭       君を送る灞陵亭
  灞水流浩浩       灞水流るること浩浩たり
  上有無花之古樹    上には無花之古樹有り
  下有傷心之春草    下には傷心之春草有り
  我向秦人問路岐    我秦人に向って路岐を問へば
  云是王粲南登之古道 云ふ是れ王粲南登之古道なりと
  古道連綿走西京    古道連綿として西京に走り
  紫闕落日浮雲生    紫闕 落日 浮雲生ず
  正當今夕斷腸處    正に當たる 今夕斷腸の處
  鸝歌愁絶不忍聽    鸝歌愁絶して聽くに忍びず

少年行:李白

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李白の七言絶句「少年行」(壺齋散人注)

  五陵年少金市東  五陵の年少 金市の東
  銀鞍白馬度春風  銀鞍 白馬 春風を度る
  落花踏盡遊何處  落花踏み盡くして何れの處にか遊ぶ
  笑入胡姫酒肆中  笑って入る胡姫の酒肆の中

李白の五言絶句「杜陵絶句」(壺齋散人注)

  南登杜陵上  南のかた杜陵の上に登り
  北望五陵間  北のかた五陵の間を望む
  秋水明落日  秋水 落日明らかに
  流光滅遠山  流光 遠山滅す

李白の七言古詩「烏夜啼」(壺齋散人注)

  黄雲城邊烏欲棲  黄雲 城邊 烏棲まんと欲し
  歸飛啞啞枝上啼  歸り飛び啞啞として枝上に啼く
  機中織錦秦川女  機中錦を織る秦川の女
  碧紗如煙隔窗語  碧紗煙の如く 窗を隔てて語る
  停梭悵然憶遠人  梭を停め 悵然として遠人を憶ふ
  獨宿孤房涙如雨  獨り孤房に宿して涙雨の涙し

李白の七言古詩「子夜呉歌」(壺齋散人)

  長安一片月  長安一片の月
  萬戸擣衣聲  萬戸衣を擣(う)つの聲
  秋風吹不盡  秋風吹いて盡きず
  總是玉關情  總て是れ玉關の情
  何日平胡虜  何れの日にか胡虜を平らげて
  良人罷遠征  良人遠征を罷めん

李白の七言絶句「清平調詞」(壺齋散人注)

  名花傾國兩相歡  名花傾國 兩つながら相ひ歡ぶ
  長得君王帶笑看  長(つね)に得たり君王の笑みを帶びて看るを
  觧釋春風無限恨  觧釋す 春風無限の恨みを
  沈香亭北倚闌干  沈香亭北 闌干に倚る

李白の五言律詩「宮中行樂詞八首其二」(壺齋散人注)

  柳色黄金嫩  柳色 黄金にして嫩(やはら)かに
  梨花白雪香  梨花 白雪にして香し
  玉樓巣翡翠  玉樓 翡翠巣くひ
  金殿鎖鴛鴦  金殿 鴛鴦を鎖す
  選妓隨雕輦  妓を選びて雕輦に隨はしめ
  徴歌出洞房  歌を徴(め)して洞房を出でしむ
  宮中誰第一  宮中誰か第一なる
  飛燕在昭陽  飛燕は昭陽に在り

長安の李白

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李白が長安に召されたのは742年(天宝元年)の半ば頃だった。道士仲間の呉筠が先に朝廷に仕えており、彼の李白についての言葉が、何らかのルートで玄宗の耳にも聞こえ、召されることになったのだろうと推測されている。玄宗の妹の玉真公主が熱心な道教徒であったことから、恐らくこの女性の介在によって李白の朝廷入りが実現したのではないか。

贈内:李白

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李白の五言絶句「内(つま)に贈る」(壺齋散人注)

  三百六十日  三百六十日
  日日醉如泥  日日に醉ひて泥の如し
  雖爲李白婦  李白の婦爲ると雖も
  何異太常妻  何ぞ太常の妻に異らん

李白の七言古詩「南陵にて兒童に別れ京に入る」(壺齋散人注)

  白酒新熟山中歸  白酒新たに熟して山中に歸る
  黄雞啄黍秋正肥  黄雞黍を啄みて秋正に肥ゆ
  呼童烹雞酌白酒  童を呼び雞を烹(に)て白酒を酌み
  兒女嬉笑牽人衣  兒女嬉笑して人の衣を牽く
  高歌取醉欲自慰  高歌醉を取り自ら慰めんと欲し
  起舞落日爭光輝  起ちて舞へば落日光輝を爭ふ
  游説萬乘苦不早  萬乘に游説すること早からざりしに苦しみ
  著鞭跨馬渉遠道  鞭を著け馬に跨って遠道を渉る
  會稽愚婦輕買臣  會稽の愚婦買臣を輕んず
  余亦辭家西入秦  余も亦家を辭して西のかた秦に入る
  仰天大笑出門去  天を仰ぎ大笑して門を出でて去る
  我輩豈是蓬蒿人  我輩豈に是れ蓬蒿の人ならんや

襄陽歌:李白

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李白の雑言古詩「襄陽の歌」(壺齋散人注)

  落日欲沒峴山西   落日沒せんと欲す峴山の西
  倒著接離花下迷   倒(さかし)まに接離を著けて花下に迷ふ 
  襄陽小兒齊拍手   襄陽の小兒齊しく手を拍ち
  攔街爭唱白銅鞮   街を攔(さへぎ)って爭ひ唱ふ白銅鞮
  傍人借問笑何事   傍人借問す 何事をか笑ふと
  笑殺山翁醉似泥   笑殺す 山翁醉ひて泥に似たるを

李白の五言絶句「黄鶴樓に孟浩然の廣陵に之くを送る」(壺齋散人注)

  故人西辭黄鶴樓  故人西のかた黄鶴樓を辭し
  煙花三月下揚州  煙花三月 揚州に下る
  孤帆遠影碧空盡  孤帆の遠影 碧空に盡き
  惟見長江天際流  惟だ見る 長江の天際に流るるを

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