英詩のリズム


ジョン・ダンの詩「聖なるソネット1(翼をください)」(壺齋散人訳) -Z a

  あなたは私を作られた なのに私は滅んでいく
  私を回復してください でないと終わりがやってきます
  私は死に向かって走り 死もまた私を迎えようとする
  私のすべての喜びも 昨日の夢のように思われるのです

ジョン・ダンの詩集「歌とソネット」から「魂の喜び」Soul’s Joy(壺齋散人訳)

  魂の喜び いま僕は逝く
  君を残して
  だけれども
  僕は一人で行くわけじゃない
  君も一緒に連れて行くのだ
  僕らの目には
  互いの姿が見えなくなり
  永遠の闇に包まれるとき
  そのとき互いが光に変わる
  悲しみに沈むことなく
  互いの愛を
  信じ続け
  この奇跡をおこさせよう
  消え去るのは僕らではなく肉体なのだと

ジョン・ダンの詩集「歌とソネット」から「恍惚」The Ecstacy(壺齋散人訳)

  ベッドの上の枕のように
  はちきれた土手が盛り上がって
  スミレの頭を休ませてるところに
  僕らは愛し合いながら横たわっていた

  つなぎあった僕らの手は
  にじみ出る汗の香油で固く結ばれ
  二つの目から飛び出る視線は
  僕らの目を二重の糸でつなぎ合わせる

ジョン・ダンの詩集「歌とソネット」から「告別」A Valediction(壺齋散人訳)

  有徳の人が穏やかに息を引き取り
  魂にさあ行こうとささやきかけるとき
  悲しみにくれた友人たちはこもごもいう
  「息を引き取った」とも 「いやまだだ」とも

  そのように静かに消えていこう
  涙の洪水もため息の嵐も引き起こさずに
  世の中の人々に僕らの愛を語ることは
  僕らの喜びを損なうことだもの

ジョン・ダンの詩集「歌とソネット」から「傷心」The Broken Heart(壺齋散人訳)

  こんなことをいうやつは全くのばか者だ
  一時間の間恋をしたなどと
  それもすぐに覚めたというのでなく
  むさぼるような恋だったなどと
  もし僕が一年間疫病にかかっていたといったら
  誰が僕のいうことを信じるだろうか?
  火薬の光が太陽を焼け焦がしたといったら
  誰が僕を笑わないでいようか?

ジョン・ダンの詩集「唄とソネット」から「餌」The Bait(壺齋散人訳)

  さあおいで いとしい人よ
  金色の砂浜 クリスタルな流れで
  絹の糸と 銀の針を使って
  気晴らしに釣りをしてみよう

  川はせせらぎ流れ
  君の目は太陽よりも暖かい
  その目に恋をした魚たちは
  君に釣られることを願うだろう

ジョン・ダンの詩集「唄とソネット」から「昇る陽」The Sun Rising(壺齋散人訳)

  せっかちなオヤジ がさつ者の太陽よ
  どうしてそう気ぜわしく
  窓のカーテン越しに僕らのことを伺うのだ?
  恋の営みもお前の歩調に合わせろというのか?
    助平なエロオヤジめ
    怠け者の子供たちでも叱っていろ
    鷹匠たちに王様のお出ましだと伝えろ
    百姓たちをさっさと仕事に駆り立てろ
  僕らの恋の営みには季節も陽気も
  時間も月日も 時の歩みは関係ない

ジョン・ダンの詩集「唄とソネット」から「唄」Song(壺齋散人訳)

  さあ行け 流れ星をつかまえろ
  マンドレークを根こそぎ引っこ抜け
  過ぎ去った日々がどこに消えたか
  悪魔の股を裂いたのは誰か言ってくれ
  どうしたら人魚の歌が聞けるのか
  嫉妬の針を避けられるのか 教えてくれ
   そうすればどんな風が
   正直な心を
  育んでくれるかがわかるから

ジョン・ダンの詩集「唄とソネット」から「蚤」The Flea(壺齋散人訳)

  この蚤を見てごらん こいつにとっては
  君が僕を拒絶したことなど 何の意味もないのだ
  こいつはまず僕の血を吸い ついで君の血を吸った
  こいつの中で僕らの血は混ざり合ったのだ
  わかるだろうこれは 別に罪でもなく
  恥でもなく 貞操が失われたわけでもない
    こいつは求愛もしないうちからお楽しみ
    僕ら二人の血を吸って丸々と太っている
    僕らができないことをまんまとしでかして!

ジョン・ダン John Donne (1572-1631) はイギリスの文学史上あまり例をみないユニークな詩人である。その文学上の業績は同時代人にとっては受け入れられることはなかった。だが20世紀になると深い影響を及ぼすようになり、イェイツやエリオットに高く評価された。ヘミングウェーやマートンは自分の作品の題名をダンの文章からとったりしている。

36歳の誕生日 On This Day I Complete My Thirty-Sixth Year (バイロン:壺齋散人訳)

  今やもう心をときめかす年ではない
  人の心をときめかすこともない
  だが愛されることはないにせよ
  人を愛し続けたい

誰がキーツを殺したかWho killed John Keats?(バイロン:壺齋散人訳)

  誰がキーツを殺したか?
  自分だと クォータリーがいう
  手荒に 容赦なく
  見事な手柄ぶりだったと

  誰が矢を放ったか?
  詩人の番人ミルマンさ
  奴は人殺しが大好きだ
  サウジーも バーローも

さまようのはやめよう So we'll go no more a-roving(バイロン:壺齋散人訳)

  もう さまようのはやめよう
  夜はこんなにも更けてしまった
  心がまだ愛に息づいていても
  月がまだ明るく照らしていても

ギリシャの島々 The Isles of Greece(バイロン「ドン・ジュアン」:壺齋散人訳)

  ギリシャの島々 ギリシャの島よ!
  情熱のサフォーが愛し歌ったところ
  戦争と平和の術が栄えたところ
  デロスが立ち フェーボスが跳ねたところ
  永遠の夏が輝きをもたらし
  太陽のほか沈むもののないところ

バイロンの詩「オーガスタに捧げる」STANZAS TO AUGUSTA を読む。(壺齋散人訳)

  わたしの幸運の日が過ぎ去り
  わたしの運命の星が傾いても
  あなたは優しい心をもって
  わたしの過ちを見逃してくれた
  あなたはわたしの悲しみをみて
  それを自分のものとして受け取ってくれた
  わたしの魂が思い描く愛とは
  あなたなしではありえなかった

バイロンの詩「音楽に寄せて」 Stanzas for Music を読む。(壺齋散人訳) 

  美の女神の娘たちのなかでも
  お前ほど魅惑的なものはない
  お前のその甘い声は
  水が奏でる音楽のようだ
  その声にうっとりとして
  大海原も静まりかえり
  波はきらりと閃光を発し
  風は気持ちよく夢見るようだ

バイロンの詩「冷たさが人を包んで」 When coldness wraps this suffering clayを読む。(壺齋散人訳)

  冷たさが人を包んで粘土のように変えるとき
  不滅の魂よ 汝はどこにさまよい出るのだ?
  汝は死すことなく とどまることもなく
  抜け殻となった体を残して飛び出す
  もはや形にとらわれない汝は
  惑星の軌道をひとつずつたどっていくのか?
  それとも広大な宇宙を一瞬のうちに
  内なる目でとらえるのか?

ロード・バイロンの詩「彼女の歩く姿の美しいさま」 She walks in beauty を読む。(壺齋散人訳)

  彼女の歩く姿の美しいさまは
  雲ひとつない星空のようだ
  闇の黒さと星々の輝きが
  彼女の姿 目の中で出会い
  やさしい光を放っている
  真っ白な昼には見られない光だ

ジョージ・ゴードン・バイロンGeorge Gordon Byron (1788-1824) は、イギリスのロマン主義が怒涛のように渦巻いた時代に、常にその渦の中心にいた詩人だった。生前はもとより、19世紀中を通じて、ロマンティシズムのチャンピオンとして受け取られたばかりか、シェイクスピアと並んで、イギリスが生んだ最も偉大な詩人だと考えられていた。今日ではシェリーやキーツの後塵を拝するようになってしまったバイロンだが、そのユニークで壮大な業績はやはり超一流の芸術といわねばならない。

ジョン・キーツは、不治の病に襲われ自分の死を身近なものとして考え始めて以来、様々な形で死というものに立ち向かい、それを詩に歌った。それらは、輝かしかった日々への愛惜の念であったり、愛する人々への感謝の気持ちであったり、死すべき身にして恋をしたことへの自責であったりした。

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