英詩のリズム


ウィルフレッド・オーウェンの詩「死者たちのための挽歌」 Anthem for Doomed Youth(壺齋散人訳)

  家畜のように死んでいったもののために鳴るのはどんな鐘か?
  たけり狂った拳銃の音と
  ガタガタとなり続けるライフルの音が
  彼らにとっての唯一の祈りの声
  銃の音のほかには どんなあざけりの声も
  祈りも鐘の音も嘆きの声も聞こえない
  泣き叫ぶ銃弾の振るえと轟音とが
  悲しみの国から彼らに呼びかける

ウィルフレッド・オーウェン Wilfred Owen の詩「少年と武器」Arms and the Boy(壺齋散人訳)

  その少年に剣の切れ味を試させてみろ
  ハガネが冷たく 血に飢えてとがっている
  真っ青な悪意に満ち 狂人のひらめきのようだ
  抜かれるやいなや それは肉を求めるだろう
 

ウィルフレッド・オーウェン Wilfred Owen の詩「アブラハムとイサク」
Parable of the Old Men and the Young(壺齋散人訳)

  アブラハムは立ち上がり 薪を持ってでかけた
  生贄のための火と ナイフを携えて
  アブラハムが息子たちとともに腰を落ち着けたとき
  長男のイサクが父に向かって言った
  生贄のための火も鉄も準備ができた
  でも神にささげる羊はどこに?
  アブラハムは息子を縄と紐で縛り上げると
  地面に塹壕を掘り 柵をめぐらし
  ナイフで息子の体を切り裂こうとした
  すると空中に天使があらわれアブラハムにいった
  子どもに手をかけるのではない
  子どもを殺してはならぬ
  見よ 角を縛られた一頭の羊を
  この羊を息子の代わりに生贄にせよと
  だがアブラハムは息子の体を切り裂いたのだった

ウィルフレッド・オーウェン Wilfred Owen の詩「メンタルなケース」Mental Cases(壺齋散人訳)

  誰なんだ? なぜ黄昏の薄明かりのなかに座ってるんだ?
  煉獄の影のように体を揺らし
  あごからだらしなく舌を垂らし
  おぞましい骸骨のように歯をむき出しているのは何故だ?
  押し寄せる苦痛のためか? どんな苦悩が
  腐りかけた頭蓋骨に割れ目をえぐったのだ?
  髪からも 手のひらからも
  悲惨さが滲み出す そうだぼくたちは死んだのだった
  眠りながら この世の地獄を進みながら

ウィルフレッド・オーウェン Wilfred Owen の詩「戦場の眺め」The Show(壺齋散人訳)

  ぼくの魂が死の漂うぼんやりとした高みから下界を見下ろす
  どうやってまた何故そうしているのかわからないまま
  すると悲しい光景が見えた 弱々しく
  うつろな悲哀で月のように丸くうがたれた灰色の地面
  所々あばたやかさぶたのようなものに覆われている地面

ウィルフレッド・オーウェンの詩「より偉大な愛」Greater Love(壺齋散人訳)

  赤い唇も
  イギリス兵の血に染まった石ほど赤くはない
  恋人たちのやさしさも
  彼らの純粋さの前では色あせる
  おお愛よ 君の目は
  わたしの代わりに光を失ってしまった

ウィルフレッド・オーウェン Wilfred Owenの詩「奇妙な出会い」Strange Meeting(壺齋散人訳)

  ぼくは戦場を逃げ出して
  花崗岩を抉ってできた深くて暗い
  トンネルの中を歩いているようだった
  そこは横たわったものたちがうめき声をたてていた
  考え事をしてるのか 断末魔のうめきか 身じろぎもしないで

ウィルフレッド・オーウェン Wilfred Owen (1893-1918) は、戦争詩人 War Poet あるいは塹壕の詩人 Poet of the Trenches として、20世紀のイギリス文学に独自の足跡を残した。第一次世界大戦で死んでいった多くの人々の死を目の前に見て、彼らの死と生の意味を、自分のそれに重ね合わせながら歌ったオーウェンの作品は、今でも世界中の人々の心を揺さぶり続けている。

ウィリアム・ブレイクの詩「エルサレム」を読む。(壺齋散人訳)

  目覚めよ イングランド 目覚めよ!
  汝の妹エルサレムが呼んでいる!
  何故死の眠りにふけったまま
  彼女を城壁の外に立たしておくのか?

ウィリアム・ブレイク William Blake の長編詩「ミルトン」から「エルサレム」

  するとあの古代の人々の足が
  イングランドの青い山々を歩いたのか?
  主の聖なる羊がイングランドの
  さわやかな牧場に見られたのか?

ウィリアム・ブレイクの詩集「アルビオンの娘たちの幻影」 Visions of the Daughters of Albion から序の歌(壺齋散人訳)

  私はテオトルモンを愛したの
  恥ずかしいとは思わなかったわ
  でも処女ゆえの恐れから震えて
  ルーサの谷間に隠れたの

ウィリアム・ブレイク「天国と地獄の結婚」The Marriage of Heaven and Hellから序詞を読む。(壺齋散人訳)

  リントラが吼え 重苦しい空に火を吹き上げる
  飢えた雲が海面に垂れ込める

ウィリアム・ブレイク William Blake「ロゼッティ写本」から「永遠のゴスペル」 The Everlasting Gospel(壺齋散人訳)

  君たちが見るキリストのヴィジョンは
  私のヴィジョンにとっては大きな敵だ
  君たちのは君たちのような鉤鼻をしている
  私のは私のようなシシ鼻だ

ウィリアム・ブレイク William Blake の「ロゼッティ写本」から「女王に」To the Queen(壺齋散人訳)

  死の扉は金で作られ
  人の目には決して見えない
  だけれども目が閉じられ
  体が冷たく横たわると
  魂が目覚めてあたりをさまよい
  その手には黄金のカギを持つ
  墓は天国への黄金の門
  貧者も富者もそれを目指す
  イギリスの護民官よ
  この荘厳な門を見よ!

ウィリアム・ブレイク「ロゼッティ草稿」から「キューピッド」 Why was Cupid a boy(壺齋散人訳)

  キューピッドは何故男の子なのか
  男の子が何故キューピッドになったのか
  私の見る限りでは
  女の子でもよかったはずだ

ウィリアム・ブレイク「ロゼッティ草稿」から「君は信じない」 You don't believe(壺齋散人訳)

  君は信じない 私も信じてもらおうとはしない
  君は寝むっている 私も起きてもらおうとはしない
  さあそのまま寝ていたまえ その快適な眠りのうちで
  君は命の明るい流れから理性を汲み取ることだろう
  理性とニュートン この二つは異なったものだ
  ツバメやスズメもそう歌っているとおり

ウィリアム・ブレイク「ロゼッティの写本」から「愛を語ってはならない」 Never seek to tell thy Love(壺齋散人訳)

  決して愛を語ってはならない
  愛とは語られることの出来ないもの
  やさしい風がそよぐときも
  静かに 見えないようにそよぐように

ウィリアム・ブレイク「ピカリング草稿」から「のっぽのロング・ジョンと小さなメリー・ベル」 Long John Brown and Little Mary Bell(壺齋散人訳)

  小さなメリー・ベルの木の実には妖精が住んでいた
  のっぽのロング・ジョンの腹の中には悪魔がいた
  ロング・ジョンはメリー・ベルに恋をした
  そこで妖精が悪魔を木の実に誘った

ウィリアム・ブレイク William Blakeの詩集「ピカリング草稿」から「無垢の予兆」Auguries of Innocence(壺齋散人訳)

  一粒の砂の中に世界を見
  一輪の花に天国を見るには
  君の手のひらで無限を握り
  一瞬のうちに永遠をつかめ

ウィリアム・ブレイク「ピカリング草稿」より「夢の国」 The Land of Dreams(壺齋散人訳)

  起きな 坊や 目を覚ますんだ
  お母さんだって心配するよ
  眠りながら何故そんなに泣くんだ?
  さあ起きな お父さんが守ってやるから

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